四体液説と四気質説は切っても切り離せないものですよね。
ここでは四体液説を解説するので、次回と合わせると繋がりをバッチリ理解できます!
提唱した人物や元になった考えについても広く浅く、簡潔に紹介していきます!
四体液説とは? 簡単に
四体液説は、4つの体液(血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁)のバランスが健康を左右するという考えのことです。
これは、心理学でも出てくる四気質説のもとになった考え方です。
どゆこと?って方は、次からの解説でしっかり理解できるのでお楽しみに。
四体液説のすべて
始まりは四元素説
四体液説は、四元素説を基に考えられました。
四元素説は、古代ギリシアの哲学者エンペドクレスが提唱しました。
世界のすべての物質は空気、水、火、土の4つの元素で構成されているとする考えです。
(より詳しい話はこちらサンプルページ)
エンペドクレスの四元素説をアリストテレスが発展させました。
アリストテレスは、四元素が熱と冷、湿と乾の組み合わせで構成されていると考えました。具体的には
- 空気:「熱」「湿」 熱くて湿っている
- 水 :「冷」「湿」 冷たくて湿っている
- 火 :「熱」「乾」 熱くて乾いている
- 土 :「冷」「乾」 冷たくて乾いている
アリストテレスが発展させた四元素説を基に、ヒポクラテスが四体液説を提唱しました。
四体液説と四元素説
四体液説は、「医学の父」と呼ばれている古代ギリシアの医師ヒポクラテスが紀元前5年ごろに提唱しました。
四体液説における四体液とは、血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁の4つの体液のことです。
この四体液は四元素説の元素に対応していると、ヒポクラテスは考えました。
- 血液:空気、熱く湿っている
- 粘液:水、冷たく湿っている
- 黄胆汁:火、熱く乾いている
- 黒胆汁:土、冷たく乾いている
4つの体液がバランスよく体内にある時は健康的な状態であり、もしバランスが崩れて偏りが生じてしまうと、病気になってしまいます。
ヒポクラテスは、体液のバランスを整えることで病気を治癒することができると考えました。
四体液説は体液病理説の1つ
四体液説は、全体観(holistic view)を基に成り立つ体液病理説の1つです。
全体観とは?
体の一部が病気になっているのではなく、体の全体が病気になっているとする考え方です。病気は一つであっても、それが体全体に表れているため、一部を見るのではなく体全体を診るということです。
体液病理説とは?
健康は体液のバランスによって左右されるという考えです。その中でも四体液説は、4つの体液に分けて考えたということです。
四体液説を提唱したヒポクラテスはコス派に所属していますが、ライバルのクニドス派も存在していました。
コス派は体液病理説でしたが、クニドス派は固体病理説でした。
固体病理説とは?
体液病理説が体全体の体液を診ていたのに対し、固体病理説は体の1部の器官が原因だとしていました。体全体を診るのではなく、臓器1つ1つを診て病名も細かく分類していました。
しかし、医療の技術が発達していないので1つ1つの病名を区別することが難しかったため、体液病理説のほうが支持されました。
また、コス派が四体液説を提唱していたのに対し、クニドス派は粘液・胆汁説を提唱していました。
なんでクニドス派が粘液・胆汁説を提唱してるの?
これは、粘液と胆汁のバランスを診るという全体観的考えではないのです。粘液と胆汁の状態を診ることで、器官の異常を知ることができるという考えです。ややこしいですが、粘液と胆汁全体のバランスが病気の原因ではなく、根本の原因は粘液と胆汁を作っている器官にあるということです。
結果的にローマの名医師ガレノスが、ヒポクラテスが提唱した四体液説を体系化して広めたため、固体病理説は衰退していきました。
四体液説の仕組み
四体液説のイメージは「料理」です!
まず、食べ物を食べます。
そうすると消化が始まりますが、これが料理における加熱になります。
食べ物が体内の熱で処理されることを「熟成・へプシス」と言います。
食べたもの(食材)を消化(加熱)して、その加熱の温度によってそれぞれの体液が生成されます。
加熱の温度が適温であれば血液が、過小であれば粘液が、過大であれば胆汁が生成されます。
ここで言う、胆汁は黄胆汁のことです。
黄胆汁は脾臓で浄化されますが、脾臓が正常に働かないと黒胆汁が生成されます。
浄化されたらどうなるの?
黄胆汁が浄化された後については、詳しくわかっていません。四体液のバランスを保つために血液になるのか、体外に排出されるのかは不明です。しかし、過剰に生成された黄胆汁が脾臓によって、バランス調整されると考えてられいたのは確かです。
このように生成された体液の丁度いいバランスは人によって異なり、そのバランスに偏りが生じると病気なってしまいます。
もっとも健康な人は四体液がその人にとって適切なバランスで混ざっている「混和・クラーシス」状態にあります。
病気の人の体液は、4つのうち1つに過不足がある、もしくは1つの体液が混ざっておらず分離されている状態です。
病気と治癒
四体液がバランスよくある状態を「正常混合状態」といいます。
そして、環境・生活習慣・体質により体液のバランスが崩れると「異常混合」となり、病気になります。
病気は、未熟期(a pepsis)→成熟期(pepsis)→分離期(separation)の順番で進んでいきます。
未熟期からだんだん体液のバランスが変化していき、成熟期で体液が沸騰(coctio)して、病気が発症(crisis)します。
ここで言う沸騰って?
体液の変化がピークになるということです。体液が加熱調理されて煮詰まっていきます。この沸騰・ピークの状態が症状の山場であると考えてもいいでしょう。
その後分離期に入り、余分な体液が体外へ排出されることで症状が治まります。
が、この時余分な体液が下半身に沈着してしまうと、慢性病になってしまいます。
治療するには「自然の熱・ピュシス」が必要です。
ピュシスって?
体の自然的な治癒力そのもののことです。実は、病気のピークである成熟期に、体液を加熱調理して成熟させるのも、このピュシスが治療しやすくするためだったんです。山場を越えたあとはゆっくり症状が落ち着いてきますよね。
自然の熱・ピュシスにより余分な体液を調理して体外に排出します。これを「自然治癒」と言います。
例えば以下のようなものが挙げられます。
- 下痢、嘔吐、発汗、排尿、怪我(炎症した部分が煮沸して膿で排出)
- 瀉血(ヒルや刃物で血を出して排出)、下剤、浄化剤、誘導剤の投与
- 運動、食事、入浴
また、「逆療法」というものがあります。
これは、ヒポクラテスの「反対はその反対で治癒される」という言葉に由来します。
例えば、黒胆汁は「冷・乾」の性質を持つため、その反対の「熱・湿」の性質を持つ食べ物や薬草を摂取すればいいということになります。
四体液の説明 血液
血液(sanguis,Gk.haima)
※Gk.はギリシャ語表記です
特徴
体内の熱が適温の時に生成されます。生命維持に重要であるとされます。
四元素説の「空気」に対応し、「熱・湿」の性質をもちます。
症状
血液が多いと体内に熱と湿気がこもり、のぼせ、発汗、発熱の症状が出ます。
治療法
ヒルや刃物を使って余分な血液を排出する瀉血が一般的です。
血液が過剰な時は「冷・乾」の大麦や野菜の摂取、少ない時は肉や赤ワインを摂取します。
また、適度な運動も血液の循環を促してくれます。
四体液の説明 粘液
粘液(phlegm,Gk.phlegma)
特徴
消化の際、体内の熱が過少だと生成されます。ギリシャ語の「phlego・燃える」が由来です。
四元素説の「水」に対応し、「冷・湿」の性質を持つのになぜ由来が「燃える」なのか。
粘液は、冬に風邪をひくときの産物だと言われていました。
体が冷えたことで体内に炎症が生じ、粘液が生成されるのです。
冷えたことで「冷・湿」の粘液が生まれますが、体内では炎症が起きます。
「炎」症と日本でも言うように、体内が焼かれるような発熱の症状が由来になったのではないでしょうか。
また、脳は粘液を保護して適度な潤いを与えていると考えられていました。
症状
過剰だと風邪、咳、鼻水、だるさを引き起こします。風邪の症状に近いですね。
治療法
粘液が過剰な時は、反対の性質の「熱・乾」の食べ物、主に辛い食べ物の摂取、過小な時は温かいスープの摂取が推奨されます。
蒸気吸入やハーブ(ユーカリ、タイム)の吸入で呼吸器を洗浄し、粘液を出そうとしました。
また、運動して体を温めることも有効であるとされていました。
四体液の説明 黄胆汁
黄胆汁(choler,Gk.chole)
特徴
食べたものを消化する際、体温が過大だと黄胆汁が生成されます。
高温から生成されるので泡立ちやすく、熱く、軽いとされています。
四元素説の「火」に対応し、「熱・乾」の性質をもちます。
正常な脾臓で浄化されるなら黄胆汁の出番は少ないのでは?
黄胆汁が生成されても脾臓で浄化されるなら、黄胆汁の出番は少ないのではないか?脾臓が病的だと黄胆汁が黒胆汁になってしまうなら、黄胆汁じゃなくて黒胆汁だけでいいのでは?と考えてしまったのは私だけではないはず。これには様々な理由があります。そもそも四体液説は四元素説を基にできており、それぞれの体液同士が引き合いつつも反発し合うバランス構造になっています。ですから、4つにすることはバランスも良く、次につながる四気質説の説明もしやすくなります。また、生成された黄胆汁のすべてが浄化されるのではなく、あくまでも余分な分だけ浄化されるのです。決して生成された黄胆汁がすべて浄化されるわけではありません。先述したように、人にはその人に合ったバランスがありますから、もともと黄胆汁が多い人もいるのです。以上のような理由から、黄胆汁が必要であることがわかるでしょう。なるほど…。
症状
黄胆汁が多いと熱病、高熱、胃のむかつき、イライラの症状が現れます。
ちなみに「コレラ」という病気の由来になったのはこの黄胆汁です。
暑い地方で頻発したため、四元素説の「火」に対応する黄胆汁の「choler」が名前の由来になったと言われています。
治療法
食事療法として黄胆汁が過剰な時は、体を冷やす必要があります。そのため、きゅうりや冷たい飲み物などを摂取します。
逆に、黄胆汁が少ない時は熱くて乾いた食べ物を摂取する必要があります。香辛料などですね。
鎮静効果のあるハーブ(カモミール、バレリアン)、冷却効果のある薬草を利用して体内の熱を下げようともしました。
また、瞑想やストレッチをして怒りやストレスの解消をすることも推奨されました。
四体液の説明 黒胆汁
黒胆汁(Melancholy,Gk. melan chole)
特徴
黒胆汁は、黄胆汁が病的な脾臓のために浄化されずに生成されたものです。
酸味が強く、体を腐食してしまうと言います。
黒胆汁の由来は、うつ病の人の排泄物の色からとられたと言われています。
四元素説の「土」に対応し、「冷・乾」の性質をもちます。
症状
黒胆汁が過剰だと、憂鬱的、抑うつ的、消化不良、皮膚炎、疲労、うつ病になってしまします。
治療法
食事療法では、黒胆汁が多い時は体を温めて湿らせるために、スープ、はちみつ、大根などの摂取が必要でした。
黒胆汁が少ない場合は、栄養価の高い冷たく乾いているものが推奨されました。
温熱療法と言って、体を温めることも効果的でした。疲れたときは湯船につかりましょ
また、憂鬱な気分の解消のために社交や、日光を浴びることも治療の一環として取り入れられました。
四体液説とは? まとめ
今回は四体液説について解説してきました。
とにかくバランス重視で、一部ではなく全体の、そしてその人に合った治療をしていくという面白い考え方でしたね。
次回の四気質説の解説とつなげることでより楽しめると思います。
やはり何事もバランスが命ですね。多すぎも少なすぎもよくないのです。
そして、みんなが同じバランスではなく、その人に合った「ちょうどいい」が存在します。
自分にとっての丁度いいを人の基準に合わせるのは疲れてしまいます。
自分のバランスに丁度いい火加減ができるのは自分だけですから。